みなさん、現在のスペイン王国の国旗は見たことありますか?
よく見ると、王冠や紋章、2つの柱になにか文字が書かれたリボンのようなものが絡んでいる・・・
実はこのスペイン王国の国旗を知ると、スペインの歴史がみえてきます。
この国旗は1981年に制定されたもので、意外と新しいんですよね。
いったいどんな意味が込められているのか、みていきましょう。
スペイン国旗の全体像
まずはスペイン国旗そのものの歴史を簡単に学びましょう。
原型
カルロス3世が作らせた旗が原型となっています。
時代は18世紀。
海戦をするときに見分けやすいように、とのことで赤と黄の色が取り入れられました。
赤と黄は、スペイン建国を導いたカスティーリャ王国とアラゴン王国の伝統色でもありました。
当時の船舶旗は白を基調としたものが多かったようなので、確かに赤色と黄色になるとわかりやすいですね。
この2色は後に何度か変更される旗にも受け継がれ、スペインの公式色となりました。
赤は敵を撃退したときに流れた血をあらわし、「民族の血」という意味が込められています。
黄色は「豊かな国土」を意味します。
スペイン国旗は「ロヒグワルダ(血と金の旗)」の愛称で呼ばれています。
1785年に現在の原型となる旗が採用され、1843年に海軍旗となり、1874年にアルフォンソ13世が国旗に定めました。
旗の変成
1931年〜1939年の共和制時代には、旗が三色旗になりました。
横に赤・黄・紫と並びます。
1939年〜1975年までは独裁政治を行ったフランシスコ・フランコにより赤色と黄色と大きな鷲(ワシ)が描かれた国旗に変わっています。
※1939年〜1945年の国旗はワシと柱のリボンは若干下記とは異なりますが概ね似た国旗が使われました。
ところでなぜ「鷲(ワシ)」なんでしょうか?
実はキリスト教と深く関わっています。
実はこのワシ、イエス・キリストの12使徒の中でも最も重要かつ地位の高い使徒「ヨハネ」を意味するのです。
ヨハネの福音書の冒頭がロゴス(言葉)に関する聖句から始まります。
このみことばが神の玉座まで昇っているワシのように見えたため、ヨハネとワシが紐付けられて考えられるようになりました。
スペインがカトリック国であることをあらためて実感しますね。
1977年〜1981年まで、柱が無くなりワシだけになりましたが、1981年の王政復古を境に、いまのスペイン国旗が誕生しました。
スペイン国旗〜5つの紋章〜
まず目を引くのが、大きく4つに分かれた紋章です。
実はこれ、レコンキスタ時代にあった、かつての王国の紋章なんです。
左上がカスティーリャ王国(城)です。
そして時計回りにレオン王国(獅子)、ナバラ王国(鎖)、アラゴン王国(金地に4本の縦線)の紋章が描かれています。
11世紀頃はこの4つの王国がありました。
その後連合王国になったりといくつか編成を経て、レコンキスタが完了する前にはカスティーリャ王国とアラゴン王国がイベリア半島の2大勢力となりました。
そしてカスティーリャ王国王女イサベルとアラゴン王国王子フェルディナンドが婚姻することで、1つの王国が誕生します。
それが1479年に成立したスペイン王国でした。
とはいうものの、カスティーリャ王国はバスクやナバラなど元々独自の国制を敷いていた地域を包括して成立していましたし、アラゴン王国もカタルーニャやバレンシア、ナポリ、シチリアなども同じように独自の国制をもっていたので、スペイン王国はかなり複合的な寄せ集め国家でした。
それゆえスペイン王国として人々の意識が1つにまとまるまで、長い年月がかかります。
実際にいまもバスク地方やカタルーニャ地方の独立問題はたびたび浮上しているよ
さて、話を国旗に戻しましょう。
4つの紋章の真ん中に、白百合の紋章がありますよね。
これがブルボン王家の紋章です。
ブルボン王家といえばフランスを思い出す方も多いかもしれませんが、スペイン継承戦争を境にスペイン王家はブルボン朝が続いています。
そしてもう1つ、紋章ではないのですが一番下に花のようなものが描かれているのがわかりますか。
実はこれ、グラナダ王国の象徴である「ザクロの実」なんです。
グラナダといえばイスラームで、レコンキスタ最後のイスラム王朝でした。
ここを陥落させたのが1492年。
国旗にこれをいれるということは、スペイン成立にとってよほど大事なことだったと推測されます。
続いて両側に描かれている柱ですね。
スペイン国旗〜柱と文字〜
国旗に描かれている2本の柱ですが、これはヘラクレスの柱です。
よくみると海のような、波の上に柱が描かれていますよね。
柱の上には王冠が載っていますが、若干形が異なるのがおわかりでしょうか。
左がカール5世(=カルロス1世)の王冠で、右がスペイン王家の王冠です。
そこにリボンのようなものがかかっていますが、ここに書かれている字がラテン語の「PLVS」「VLTRA」。
ブルス・ウルトラ
訳すと「さらに彼方へ」。
これはカール5世もといカルロス1世のモットーであった言葉。
レコンキスタ後のスペインが植民地帝国時代を築くことはあまりにも有名です。
スペイン国旗はこれらの歴史を想起するかのようなデザインになっているんですね。