宗教史★★★/オリエント史★★
宗教でよく耳にするのは、仏教・キリスト教・イスラム教・ユダヤ教・・・とかだよね
そのなかでも、キリスト教・イスラム教・ユダヤ教は兄弟みたいなもんって聞くけど?
簡単に言うと、ユダヤ教を宗教改革したようなものがキリスト教で、さらにそこから派生したのがイスラム教だね
いまはとっても仲が悪そうにみえるけど…
まぁ、宗教問題を話し始めると長くなるから…
このあたりの宗教史はまた別の機会にするとして、今日はこれら3つの宗教よりも前の、まさに大元になっているゾロアスター教について学んでいこう
え?おおもと??
今でもまだ謎が多い宗教だけど、この不思議なゾロアスター教、知ると色々おもしろいよ
できるだけシンプルによろしくお願いします・・・!
ゾロアスター教のはじまり
紀元前12世紀頃、中央アジア~イラン高原東部あたりのどこかで生まれたと言われてますが、はっきりとした年代や場所までは特定されていません。
ただ、ゾロアスター教を唱えた人物は特定されています。
それは、ザラスシュトラ・スピターマという神官で、彼は唯一神(最高神)としてアフラ・マズダーを崇拝せよと言いました。
この、ザラスシュトラを英語読みしたのが、ゾロアスターです。
彼の何がすごかったかというと、当時は多神教がスタンダードな考え方です。
そういう中で、唯一神を唱えて布教するというのはある意味宗教改革に近い衝撃だったと考えられます。
ちなみに、ザラスシュトラ・スピターマはアーリア人(ペルシア人)だよ。ゾロアスター教はアーリア人の宗教と言えるね。
一人の教祖が、神の啓示を受けて創始したと捉えるならば、ゾロアスター教は世界で最初の啓示宗教であったと考えられます。(後々、イスラーム教徒はユダヤ教徒とキリスト教徒は「啓典の民」と認め、ゾロアスター教徒もそれに準ずる形で認めている。)
しかし、ゾロアスター教は多神教が一般的なアーリア人たちに受け入れられませんでした。
せっかくザラスシュトラが大胆な声をあげたのに、ねじ伏せられたのか無視されたのかわかりませんが、その後特に大きく布教されることなくこのゾロアスター教はしばらく細々と続いていくのみになります。
ただ、彼が残した文字や伝承は後世に残され、「なんか知らないけど東の方はゾロアスター教ってのがあるらしいぞ」、と地中海世界にその名だけが知れ渡ったという奇妙な運命を辿ります。
東の方で強かったアーリア人(ペルシア人)の宗教はゾロアスター教だと、西の地中海周辺から思われていたということですね。
ペルシア内は実際土着の宗教が多くあって、純粋なゾロアスター教の信者は果たしてどのくらいいたかは定かではないみたい
ゾロアスター教ってどんな宗教?
では、ゾロアスター教がどんな宗教なのかみていきましょう。
一番はじめ、ザラスシュトラ・スピターマが唱えたとされる教義はこちらです。
最高神はアフラ・マズダー
そのもとに、善霊スプンタ・マンユと悪霊アンラ・マンユがいて、この2霊が闘争を繰り返す、という考え。
善悪二元論です。
生きている間、人間は善も悪も、どちらの行動も取れる。
「最終的に人は神によって裁かれ、善者は天国にいく」、というシンプルな考え方です。
このような世界観はその後のユダヤ教やキリスト教などの一神教に影響を与えたと考えられています。
最後の審判なんて、まさにそんな感じてすよね。
ところが5世紀頃に教義がちょっと変わります。
時間神ズルヴァーン
そのもとに、善神オフルマズド(アフラ・マズダー)と悪神アフレマン(アンラ・マンユ)が対決する、という考え。
これをズルヴァーン主義と言います。
アフラ・マズダーが最高神ではなく善神に降格(?)させられるような形になってしまっています。
プレイヤーになったんです。
時間神という表現はなかなか捉えにくいものですが…
ここは虚無的な表現でまとめあげ、ぼやかしている気がしてしまいます。
その代わり、実は善神と悪神の戦いについては答えが出ているんです。
「善神が勝つ」という前提のもと、「悪神がまき散らしてきた悪いものを、現世の人々が善い行いをして除去・回収していこうね」という考えです。
わかりやすいうえに、なんか元気出ませんか?
だって、勝つこと前提で生きれるんです。
勝つことがわかってる試合を、安心して観てるようなものです。
それって、とても楽観的な考えになりませんか!?
ところが、9~10世紀頃にまたちょっと変わってきます。
今度は、
善神アフラ・マズダーと悪神アンラ・マンユが対等の立場で対決する、という考え。
これを完全二元論といいます。
これは決着がついておらず、常に善神と悪神が闘っているので、善神が負けないように現世の人々は善い行いをして頑張らなければなりません。
結果がどうなるかわかっていないという点では非常に緊張感があります。
なんなら、いまは悪神におされている状況という設定になっています。
ズルヴァーン主義とは一気に変わってしまった気がしますね。
このように教義は変わっていったものの、いずれも偶像崇拝ではなく火を拝む宗教であったことは一貫しています。
これは当初のアフラ・マズダーが光明神といわれ、光を大事にしたことからきています。
そのため、ゾロアスター教を漢字に充てる際に「拝火教」となったのです。
ゾロアスター教の教典はアヴェスターです。
なんでこんなにコロコロと教義が変わったのかな?
実は外部要因が大きいといわれているよ
ササン朝ペルシアで国教になったゾロアスター教
アケメネス朝ペルシアが世界帝国を築いたとき、アッシリア帝国と違ってそれぞれの民族に寛容であったことが大帝国を築けた理由の1つになったと伝えました。
この考えのベースにあったのは、ゾロアスター教ではないかといわれています。
「善思・善語・善行」をモットーとするゾロアスター教。
この考えが、他民族に対しても行われたのではないかと思います。
ところが、ゾロアスター教が大きく取り上げられるようになるのは、ササン朝ペルシアの時代です。
ササン朝ペルシアは224年に成立し、651年まで続いた帝国です。
実はこのササン朝ペルシアで、ゾロアスター教が国教に選ばれたのです。
ササン朝ペルシアよりも前の時代は、まだ「国教」という考えはなかったんだ
どういうこと?
キリスト教を初めて公認し、国教としたのは当時のアルメニア王国。これは301年の出来事。
ゾロアスター教の国教化は厳密に言うとそれよりも前になるけど、「国教」という考え自体がないため、自分たちが主に信仰するのはゾロアスター教だ、という認識だけで、国や支配領域がゾロアスター教を指定するみたいなことはないってことだね。
ササン朝ペルシアがゾロアスター教を帝国の宗教とせざるを得なくなったのは、当時のキリスト教が影響していると考えられています。
西の方からやたらキリスト教を推してくる宣教師がたくさん訪れてくる。
なかなかのロジックを組み立てながら殉教やらキリストの磔刑やらいろんな福音を聞かせてくることに恐れを抱いたに違いありません。
実際、宣教者たちを見つけては逮捕して処刑していた、という事実も残っているようです。
いままで帝国内でそれぞれの民族を寛容的にしてきたものの、こう外部から改宗という布教をされると甚だ困るといった状況だったと思われます。
しかし、ゾロアスター教には火を拝む慣習や善悪二元論の考えはあるものの、キリスト教やユダヤ教のような「教義」というものが存在しなかったのです。
これはまずい、と急いでゾロアスター教神官たちが教義を編纂することになりました。
3~5世紀前半にかけてゾロアスター教の教義は厚みを増していったようです。
この頃ズルヴァーン主義が出てくるのよね?
おそらく、ササン朝ペルシアが安定し、ゾロアスター教は国教という権威を得た。
悪は裁かれ、あとは現世で善いことをして散らばっている悪を取り除くことをしていけばいい、という楽観主義が生まれてきてもおかしくはないかな。
そうか。時代背景にこういったことがあったんだね。
でもまた教義が変わるんでしょ?それは何が理由になったの?
これにはイスラム教の出現が影響していると考えられているよ
イスラム教の台頭とゾロアスター教の衰退
ササン朝ペルシアは、651年に滅亡します。
それはイスラム教・ウマイヤ朝の始まりでもあります。
ここからアラブ人イスラーム教徒の支配が始まっていくのです。
次々とイスラム教改宗が進んでいく中で、救われることを前提にとりあえず善いことしていこうね、といった悠長な考えではいられない状況が生じました。
9~10世紀頃の教義の変化は、こいういった時代背景があったのです。
悪神優勢の状況を覆すべく、善行を必死にしていかなければならない、そういった教義に変わっていったのです。
でもその後、オリエント地域にゾロアスター教を国教とする帝国が現れることは二度とありませんでした。
ゾロアスター教は今では改宗者を受け入れておらず、かならず両親が信者である家族に生まれなければならないと限定されているんだ
はじめはあんなに寛容的だったのにね
現在はインド、パキスタン、スリランカ、イランあたりに信者がおり、少ない人数ではあるがイギリス・カナダ・アメリカ・オーストラリアにもいるとされている。
世界宗教になれなかったゾロアスター教ですが、世界宗教に影響を与えた宗教として間違いなく人類史に残っていくことでしょう。
おまけ
ゾロアスター教の聖地としてイラン中央部のヤズドに寺院があります。
拝火神殿とよばれるこの寺院の中に、1500年以上絶えることなく燃え続けている火があるとのこと。
異教徒でも入場できる寺院なので、興味ある人はぜひ行ってみてください。
あと、観光客向けに整備はされていないようですが、「沈黙の塔」というのがあります。
ゾロアスター教は土や火、水を神聖なものとして捉えていたため、人間の遺体を土葬・火葬することを禁じていたようです。
そこで、遺体は鳥に食べさせるという慣習でした。
その遺体収容および鳥に食べさせる場所として、沈黙の塔が使われていたようです。
1970年代にこの慣習は禁止され、いまでは行っていません。
現代の我々の考えでは受け入れがたいですが、4000年前に生まれた宗教ですから、こういったこともあるでしょう。
ゾロアスター教、なかなか興味深い宗教でしたね。
余談ですが、日本の自動車メーカー「マツダ」(MAZDA)の名称の由来は、ゾロアスター教の光と善の最高神アフラ・マズダだといわれています。
社名「マツダ」は、西アジアでの人類文明発祥とともに誕生した神、アフラ・マズダー(Ahura Mazda)に由来します。この叡智・理性・調和の神を、東西文明の源泉的シンボルかつ自動車文明の始原的シンボルとして捉え、また世界平和を希求し自動車産業の光明となることを願って名付けられました。それはまた、自動車事業をはじめた松田重次郎の姓にもちなんでいます。
Mazudaホームページより引用
参考図書
古代オリエントの宗教|青木健著|講談社現代新書
古代メソポタミア全史|小林登志子著|中央公論新社